Yuki Harada Solo Exhibition: Go stay go pakiki all da time! Eh… no give up ‘til you pau!
June 20th – July 9, 2023, Museum of Japanese Emigration to Hawaii (Yamaguchi)
原田裕規 個展 やっぱり世の中で一ばんえらいのが人間のようでごいす
2023年6月20日 – 7月9日、日本ハワイ移民資料館(山口)
日本ハワイ移民資料館を舞台に、アーティスト・原田裕規(1989–)の新作展を開催します。
本展で発表する《Shadowing》は、周防大島とゆかりの深い「ハワイ移民」や島出身の民俗学者・宮本常一(1907–1981)の著作をモチーフとした映像作品。本作では、ハワイの日系アメリカ人に扮した「デジタルヒューマン」としての作家が、日系人に伝わる民間伝承に基づくさまざまなエピソードを語ります。
「やっぱり世の中で一ばんえらいのが人間のようでごいす」
メッセージ性の強い展覧会名は、宮本常一による聞書「梶田富五郎翁」からの引用。昭和25年に宮本が対馬で出会ったひとりの老人、梶田翁の台詞です。翁の人生の実感が集約されたこの言葉には、前進する人間の性(さが)を肯定する宮本のまなざしが内包されています。
周防大島をはじめとする各地からハワイへと渡った人々は、多くの困難を乗り越えて現地で社会を築き、ピジン英語に代表されるトランスナショナルな文化を形成するに至りました。そのような彼/彼女らの歩みに、人間の力強い本性(ほんせい)を見出した原田は、梶田翁-宮本の象徴的な台詞を展覧会名に据えることで、自作に新たな文脈を呼び込みます。
多くの島民がハワイに旅立った歴史をもつ周防大島の歴史資料を公開し、今なおハワイと日本のハブとして機能する日本ハワイ移民資料館は、大正期の和洋折衷建築(旧福元邸)も見どころのひとつです。
豊かな歴史を体現する無二の空間において、史実とフィクションが呼応し、新たなナラティブが誕生する瞬間をお楽しみください。
日本ハワイ移民資料館について
1999年にオープン。5,000人を超える島民がハワイに渡った周防大島の移民の歴史を伝えるために、当時の暮らしを知ることのできる資料や道具が展示されている。建物は、アメリカに渡り貿易商として成功した故・福元長右衛門が1928年に建設した邸宅を再生活用したもの。
The video works making up the Shadowing series shown here and there in the Museum all have basically the same structure.
The persons appearing in the monitors are digital humans whose production took Japanese-Americans residing in Hawaii as models. Their facial expressions are interlocked with those of Harada, the artist, by means of face-tracking technology. The digital humans could therefore be regarded as avatars of Harada.
The works are subtitled in both Japanese and English. In many cases, however, the English subtitles are in Pidgin English. Pidgin is a mixed language born from the contact between two or more languages. The Pidgin English in this series was developed by the people who emigrated to Hawaii from the late 19th to the early 20th century and their descendants. While based on English, it is a blend of words and grammatical features from the mother tongues of immigrants from Japan, Portugal, the Philippines, and other countries. A key point about the Japanese subtitles is that they too are sometimes colored by the dialect of the Sanyo region. The subtitles in this dialect are displayed in correspondence with those in Pidgin English.
Do you realize that you are hearing two types of voices? One is the voices of Japanese-American residents of Hawaii, and the other, the voice of Harada himself. In the works, Harada shadows (immediately repeats) the script lines read by the Japanese-Americans.
What the two are reading are stories collected and re-composed by Harada from various sources, including interviews with Japanese-Americans and documentation. Together with the permanent exhibition telling the story of people who emigrated to Hawaii from Suo-Oshima, we hope you will enjoy these video works and listen to their voices.
Text by Mari Tsukamoto (Curator, The Museum of Art, Kochi)
資料館内に配された映像作品「Shadowing」シリーズは、基本的に同じ構造をもっています。
モニターに映る人物は、ハワイ在住の日系アメリカ人をモデルに制作された「デジタルヒューマン」。その表情はフェイストラッキング技術によって作者の原田と連動しています。したがって、このデジタルヒューマンは原田のアバター(化身)といえるでしょう。
映像には日英字幕が付されています。ただし、英語字幕の多くは「ピジン英語」と呼ばれるもの。「ピジン」とは、2つの異なる言語が接触した結果に生まれた混成語を指します。本作におけるピジン英語は、19世紀後半から20世紀初頭にかけてハワイに渡った移民やその子孫が発展させたもので、英語をベースにしながらも、日本やポルトガル、フィリピンといった移民の母語に由来する単語や文法が混合しています。一方の日本語字幕も、時おり山陽地方の方言を帯びるのがポイント。訛りを帯びた口調の字幕は、ピジン英語のそれと対応して表示されます。
さらに、聞こえてくる「声」にも2種類があることにお気づきでしょうか。一方はハワイの日系アメリカ人、もう一方が原田自身の声です。映像では、日系アメリカ人が読み上げる台本を原田が「シャドーイング(復唱)」して追いかけています。
ふたりが読み上げるのは、原田が日系アメリカ人への聞き取りや文献資料など、さまざまなソースをもとに再構成した物語。周防大島のハワイ移民の歴史を物語る常設展示とあわせて、ぜひ彼/彼女らの声に耳を傾けてみてください。
文:塚本麻莉(本展キュレーター)
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、日本からハワイへ渡り、多くがサトウキビ畑や製糖工場での過酷な労働に従事した移民。半ば忘却された彼らの生と記憶を、「声」としてどう可視化し、継承することが可能か。原田裕規の本個展で発表された映像作品「Shadowing」シリーズは、英語の音声を聞きながら復唱する学習法「シャドーイング」を戦略的に用いて、歴史や主体の多層性と重ね合わせながら、身体行為を通した記憶の継承について考えさせる、非常に秀逸な作品だった。
[…]
日本ハワイ移民資料館は、モノや文字資料は溢れているが、(シアターコーナーの映像の一部をのぞき)日系移民自身の語る声の展示はない。そうした「肉声の不在」を補完する役割ももつ本展は、「原田裕規というアーティストの個展」ではあるが、常設化がふさわしいと思われる意義をもっていた。
高嶋慈「原田裕規「やっぱり世の中で一ばんえらいのが人間のようでごいす」」レビュー『artscape』(2023.8.1)より
原田裕規 個展 やっぱり世の中で一ばんえらいのが人間のようでごいす
日時:2023年6月20日(火)– 7月9日(日)9:30~16:30 ※月曜休館
会場:日本ハワイ移民資料館(山口県大島郡周防大島町西屋代上片山2144)
関連イベント
①アーティストによるギャラリートーク
原田裕規による館内ギャラリートークを行います(要入場券)
2023年6月20日(火)、7月9日(日)いずれも14:00–
②対談:畑中章宏 × 原田裕規
今年5月に『宮本常一 歴史は庶民がつくる』(講談社現代新書)を上梓した民俗学者の畑中章宏氏と原田による対談を行います
2023年7月2日(日)14:00–
料金:500円(要別途入館券)
定員:15名(当日先着順)
キュレーション:塚本麻莉(高知県立美術館主任学芸員)
主催:周防大島地人協会
協賛:大島国際交流協会
後援:周防大島町教育委員会、一般社団法人周防大島観光協会
助成:公益財団法人朝日新聞文化財団、公益財団法人エネルギア文化・スポーツ財団、公益財団法人きょうと視覚文化振興財団
協力:泊清寺
設営:友定睦
デザイン:重実生哉
記録撮影:松見拓也
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